後天性素因(抗リン脂質抗体症候群、糖尿病や高脂血症など)と環境要因(感染やビタミンK欠乏など)からヘテロ変異保有者における血栓症の発症予測は難しい。新生児は各因子活性が生理的に低いため、遺伝子解析が必要である。活性型PCは抗凝固以外の生物学的作用があり、ヘテロ変異の電撃性紫斑病新生児や重症感染合併乳児、脳炎・脳出血との診断困難な例も報告されている。3大因子のほかにも血栓症発症に関与するいくつかの遺伝子が明かとなっている。
特に以下の血栓症の場合には、先天性血栓性素因(先天性アンチトロンビン欠損症、先天性プロテインC欠損症、先天性プロテインS欠損症など)があることを予測して検査する必要があります。
1)若年性発症
2)まれな場所に発症
3)再発性
4)家族性
5)抗凝固療法中にもかかわらず血栓症を反復
6)習慣性流産を含む不育症
ただし、血栓症の発症には、以下のような引き金となる他の危険因子の存在も重要ですので、問診の際に十分把握する必要があります。
1)外傷
2)手術
3)感染
4)妊娠
5)ホルモン補充療法
6)経口避妊薬の内服
7)長期臥床
8)ロングフライト(旅行者血栓症)
(2)プロテインC
プロテインC(PC)、プロテインS(PS)はいずれも、凝固VII、IX、X、II因子とともにビタミンK依存性蛋白です。ですから、PC、PSはビタミンK欠乏症やビタミンKの拮抗薬であるワルファリン内服でも低下いたします。
PC活性の測定には、凝固時間法と合成基質法とがあります。
両者ともに蛇毒由来プロテインC(PC) activator(プロタック)で血漿中PCを十分活性化し、生じた活性化PC(activated PC:APC)によるAPTT延長効果をみる方法が凝固時間法であり、発色合成基質の分解能をみる方法が合成基質法です。
合成基質法ではワルファリン内服患者におけるPIVKA-PCが偽高値を示したり、Glaドメインなどに変異がある先天性PC異常症ではPC活性値が偽高値となり診断を見落とす可能性があるので留意すべきです。
PC抗原量の測定は、総PC濃度測定法と、正常なGlaを有するPCを特異的に測定する方法とがあり、共にELISAを用います。
PC活性低値を示す場合としては、以下が代表的です。
1)先天性PC欠損症
2)肝予備能低下(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)によるPC産生低下
3)ビタミンK欠乏症:食事摂取量の低下、抗生物質の長期連用、胆道閉塞(閉塞性黄疸)、ワルファリン内服など。PCは半減期が大変短く、ビタミンK欠乏状態や肝予備能低下で速やかに活性が低下します(これは後記のPSとの違いです)。
4)凝固活性化による消費(DICなど)
5)血管内皮細胞傷害に基づく血管外漏出
6)その他。
たとえば深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)症例にワルファリンを投与してしまってから血栓性素因の精査を行いますと、先天性欠損症との鑑別はきわめて困難となってしまいます。
したがって、臨床サイドも検査部サイドも、血栓性素因が疑わしい症例ではワルファリン投与前の検体保存を心がけるべきなのです。
(3)プロテインS
血中プロテインS(PS)活性は、活性化PC(activated PC:APC)のコファクター(補助因子)活性を凝固時間法で測定することができますが、保険適用外検査です。
PS抗原量は、総PS抗原濃度、遊離型PS濃度、C4BP結合型濃度をELISA法にて測定できます。
遊離型PS抗原量は、女性が男性よりも低値です。
加齢による変動は男性で認められ、80代では30代の8割以下まで低下します。
通常遊離型PS抗原量はPS活性を反映しますが、異常PS分子の場合は遊離型PS抗原量と活性は乖離する場合がありますので、先天性血栓性素因の検索にはPS活性の測定が望ましいと言えます。
しかしながら血栓性素因のスクリーニング検査では、通常保険適用のある遊離型PSしか測定できないのが現状です。
一方、PS活性測定によるPS欠損症の診断にも限界があることが指摘されており、健常者でもPS活性が低下したり、日本人に多いPS Tokushima変異(155 Lys→Glu)のヘテロ接合体ではPS活性が低下しない場合があります。
PS活性低値を示す場合としては、以下が代表的です。
1)先天性PS欠損症
2)肝予備能低下(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)によるPS産生低下
3)ビタミンK欠乏症:食事摂取量の低下、抗生物質の長期連用、胆道閉塞(閉塞性黄疸)、ワルファリン内服など。しかし、半減期の短いPCほどは低下しないことが多いです。
4)妊娠、経口避妊薬使用時
5)全身性エリテマトーデス
6)抗リン脂質抗体症候群(APS)
7)ステロイド内服
8)ネフローゼ症候群
9)その他